ユネスコ教育勧告カード型教材サイト

はじめに

Introduction

図 14の主導原則(キーワード)

「読み書きそろばん」を習わずして⼈は⽣きられない ー この考えに異を唱える⼈はそう多くはないでしょう。では「読み書きそろばん以外に何を学ぶべきなのか」という問いに対してどのように答えたらよいのでしょう。

歴史をふり返りみれば、古代ギリシャの詩や⾳楽から現代の情報テクノロジーに⾄るまで古今東⻄で時代ごとに優先されてきた内容はまちまちであることが分かります。そこで、問いをやや焦点化して「現代社会に⽣きる私たちのためだけではなく、未来の⼈々のためにも私たちが⾝につけるべき教養とは何か」としたら、どうでしょう。

上記の問いに答えるのも決して容易ではないはずですが、応答の⼿がかりとなる国際⽂書が2023年11⽉に⽣まれました。第42回ユネスコ総会で加盟国194ヵ国が議論を重ねて到達した共通⾒解とも⾔える「平和と⼈権、国際理解、協⼒、基本的⾃由、グローバル・シチズンシップ、持続可能な開発のための教育に関する勧告」です(ここでは「ユネスコ教育勧告」と略記)。

気づけば私たちは戦争が⽌まなくなった時代に⽣きています。そんな時に、現代社会で優先されるべき教育のテーマは、なによりも平和や⼈権等であるという満場⼀致の決議に全ての加盟国が漕ぎ着けたことの歴史的な意義はことのほか重要であると⾔えましょう。

この勧告の前⾝は半世紀ほど前に採択された「1974年国際教育勧告」(略称)でした。そこでは⼈権や国際理解の重要性が標榜されたにも関わらず、残念ながら実質的な効⼒をもたらさなかったという⾒⽅がなされています。たしかに、⼈権の⼤切さを唱えた旧勧告に各国は賛同したものの、⼦どもの権利をはじめ、⼀⼈ひとりの⼈権が守られているとは⾔い難い半世紀を私たちは⽣きてきたのではないでしょうか。

こうした歴史を繰り返してはならないと考え、新たな勧告がより広く普及するためのカード型教材(デジタル版)を私たちは作ることにしました。ユネスコ活動費補助⾦(令和6年度)事業の⼀環として聖⼼⼥⼦⼤学グローバル共⽣研究所及び⽇本国際理解教育学会の有志が話し合いを重ねて作成した学びのツールです。

新たな勧告には、これからの時代の教育にとって重要な「14の主導原則」が書かれています。この学習ツールでは、勧告全体の理解への扉となるように、各主導原則から1つずつ重要な「キーワード」を選びました(上図参照)。これらは各国が議論を重ねて勧告に盛り込まれた重要な概念ですので、原語が伝わるようにカタカナで表記をしています。また「キーワード」のもとに勧告の説明を平易な表現にした「エッセンス(意訳)」が記されています。さらに〈⾃分ごと〉にするための「3つの問い」を設けました。使い⽅の詳細については「カード教材の使い方」のページをご覧ください。

ユネスコ教育勧告では、これらの原則を私たちが「尊重・促進・保護」すべきであり、勧告と照らし合わせて加盟国の法律や政策、計画を継続的に⾒直すことが求められています。この学びのツールが新たな⼈類の約束事を理解する第⼀歩となり、⽇本の教育システムをより良い⽅向へといざない、ひいては勧告が唱える平和で⼈権が尊重された持続可能な社会の実現の⼀助となることを願ってやみません。

⽇本国際理解教育学会ユネスコ教育勧告推進事業委員⼀同
同事業委員会代表 / 聖⼼⼥⼦⼤学・教授
永⽥佳之