「わたしたちの一番星よ」は、現代日本を代表する詩人・和合亮一が、泥沼化する祖国の内戦を逃れて日本で出産と子育てに奮闘する在日ミャンマー人の母を取材し、彼女たちのナラティブ・ストーリーを詩で表し伝えていくプロジェクトです。
2024年現在の東京は、子育て世代の多国籍住民が増え続けてるにも関わらず、それぞれの民族や国ごとのコミュニティで孤立した子育てが行われています。また日本の地域社会には未だ異文化へのバリアが根強く、若年層の留学離れが顕著に示しているように、多文化・異文化への理解欲が急速に薄れています。そのような情勢下で増え続ける「未知の隣人」との暮らしは、些細なことが互いの誤解や軋轢につながり、外国人憎悪やヘイトにつながることは欧米の先例が示す通りです。
そのため本プロジェクトでは、誰しもが当事者である「母と子」を主題に、伝統的に詩を愛するミャンマーの人々と私たち日本人が、心と感性でつながるコミュニケーションツールとしてミャンマー語訳付の詩集を制作・刊行し、多文化子育ての現場と課題を共有します。
同時に私たちはミャンマー人母たちの取材を通して、ミャンマー国内で教育機会や未来の選択肢を奪われる子どもたちの過酷な現状も知りました。本展で掲示する和合の詩「一番星よ」には、もう二度と帰れないかもしれない祖国と、日本で育つ我が子への愛とともに、内戦下のミャンマーに閉じ込められた若者たちの将来を憂い・哀しみ・憤る母たちの激しい感情も編み込まれています。
このリサーチプロジェクトで和合が書き下ろした詩は、「一番星よ」と「てのなかの海と星」の2つの連作からなる16篇です。詩集『わたしたちの一番星よ』として上梓しました。 詩になった母たちの物語に添えられた絵は、世界的な絵本作家・荒井良二の筆によるものです。この展示は、次代を拓く若い人たち向けた、母と詩人と画家の合作であり、未来へのメッセージです。
企画協力:NPO法人Mother’s Tree Japan+東京芸術大学宮本武典研究室/助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京「芸術文化による社会支援助成」※助成対象事業〈アートによる多文化共生リサーチ「母たちの森をゆく―マザーズツリー・プロジェクト」〉の一部として実施