企画展 いま、「女性」はどう生きるか ―キャリア・結婚・装い・命―

人が生きていくために毎日やらなければならない「家事」。掃除に洗濯、料理に食器洗い、夕食の買いものにも行かなければなりません。家族が多いと、その仕事量は何倍にもなります。普段はあまり意識しませんが、学校に行ったり、会社で働いたりするのと同じように、私たちが毎日の暮らしを送るために必要なもの、それが家事なのです。

みなさんの家庭では、だれが家事をやっていますか?

みなさんもお母さんやお父さんのお手伝いをしているかもしれません。しかし、世界には家事をすることで生計を立てている子どもたちがいるのです。 この写真展の舞台であるバングラデシュには、「家事使用人」の子どもたちが42万人いるといわれています。よその家の家事をするために「メイドさん」として働いているのです。そのうちの80%は女の子で、大半は親と離れて雇い主の家に住み込みで働いています。

女の子たちは、どんな毎日を送っているのでしょうか?
学校には行っているのでしょうか?
お母さんやお父さん、きょうだいには会えるのでしょうか?

10歳にも満たない子どもたちが働いているという児童労働の現実は、遠い国の悲しい物語ではありません。日本から1日足らずで行ける同じアジアの国、バングラデシュで、そして世界中の国ぐにでいまこの瞬間に起きていることなのです。

1日中、雇い主のために働いている子どもたちの姿を通して、児童労働の問題の解決のために私たちになにができるのか、みなさんと一緒に考えてみたいと思います。

日下部尚徳
立教大学異文化コミュニケーション学部准教授

わたし8歳、職業、家事使用人。: 世界の児童労働者1億5200万人の1人

本展示は、BE*hive第2期「『児童婚』は遠い国の話?」に関連した、バングラデシュで「家事使用人」として働く子ども達について論じた『わたし8歳、職業、家事使用人。: 世界の児童労働者1億5200万人の1人』(日下部尚徳先生)の写真展です。

https://www.godo-shuppan.co.jp/book/b474134.html

コライル・ヘルプセンター。冷蔵庫の中を題材に清潔の大切さを学ぶ少女たち。冷蔵庫は自分の家にはなくても、働き先にはあることが多い。

将来、より安定した、環境のいい職に就くために職業訓練を実施している。

センターで開いた運動会。少女たちは大はしゃぎ。

センターは、同じような境遇の少女と友だちになり、子どもに戻る場所。

料理教室。ケガをなくし、雇い主から叱られることを減らすため、家事のスキルアップのトレーニングも行っている。

縫製や刺しゅうはみんなが大好きな時間。

センターは同じような境遇の少女と友だちになり、子どもに戻る場所。

世界の児童労働

International Labour Organization & United Nations Children’s Fund. (2021). Child Labour: Global estimates 2020, trends and the road forward. ILO and UNICEF. New York.

2000年から2016年にかけては減少
2016年から2020年にかけては増加

※新型コロナ拡大前の数値で算出。現状ではコロナ禍の貧困でさらに増加している可能性が高い。

女の子の児童労働

男の子とは異なり、
外からは「見えない(invisible)」労働 に従事することが多い
例)
自宅での家事労働
他人宅での家事使用人労働
セックスワーカー

バングラデシュの家事使用人労働

家事使用人として働く子どもの数は42万人
→その約8割が女の子

【ルビナちゃん(11歳)の事例】

  • 8歳から使用人として住み込みで働いている
  • 掃除、洗濯、買物、食事の支度、子守り、高齢者の世話を行う
  • 自分の部屋はなく、子ども部屋のソファで寝起きする
  • 週7日間休みなく働いており、学校には通っていない

女の子が家事使用人になる3つの理由

理由①:農村の貧困

  • 子どもにも働いてもらわないと食べていけない
  • 農作業は力仕事のため男の子は家に残す
  • 女の子よりも男の子を優先的に進学させる
貧しいが故に、女の子は結婚するまで家の 「お荷物」という意識が生まれやすい。

理由②:結婚する時に贈り物をする習慣「ダウリ

  • 結婚するときに、女性の家から男性の家に送る、 お金や物品、家畜などの結婚持参財のこと
  • 金額が少ないと、夫の家で肩身の狭い思いをする
  • ダウリは女性の年齢が若いほうが安いことがあり、児童婚の原因としても問題視されている
経済成長に伴う金額増加のため、早くから家事使用人の仕事をして、ダウリの資金を貯めることがある。

理由③:家事使用人労働への期待と斡旋者の存在

  • 貧しい親元で暮らすより、裕福な家庭で働く方がいいと考える親の存在
  • 花嫁修業ができる、良いものが食べられる、スラムより安全といった家事使用人労働への期待
  • 家事使用人の仕事を斡旋する親せきや仲介業者の存在
農村に住む親は、家事使用人の現実を理解せずに娘を送り出す。仲介業者による人身売買のようなケースも少なくない。

特定非営利活動法人シャプラニール=市民による海外協力の会

1日50円で、世界を変える。

家事使用人として働く少女たちと支援活動

バングラデシュには、家事使用人として働く少女が約33万人いると言われています(ILOの調査より、2006)。家事使用人として働く少女たちは、家事労働に長時間従事しなくてはならず、勉強したり休んだり遊んだりする時間がほとんどありません。また、家の中で暴力や性的被害にあった時に外に知らせることができません。

現在、シャプラニールは首都ダッカ市内のヘルプセンターで、次のような支援活動を行っています。

●経験のシェア

仕事、生活、楽しいこと、辛かったことなどを共有します。話すことで悩みが解決したり、勇気づけられたりします。

●教育

読み書きや簡単な計算、保健衛生や栄養などについて教えています。

●スキル・トレーニング

家事が下手だと雇用主から叱られたり、怪我をしたりすることがあるので、安全に家事ができるコツを教えています。仕事がきちんとできると少女たちも自身がつき給料が上がったり、将来よりよい働き口を見つける可能性を見出せます。雇い主には、家事が上手になることで生まれた空いた時間は少女たちの勉強や休む時間にあてるよう呼びかけています。

●レクリエーション

絵、歌、踊りを通じて、子どもらしい時間を持てるようにしています。

また、親や雇い主に子どもの権利に関するワークショップを実施して、徐々に働く子どもへのバングラデシュ社会での認識を変え、長期的には子どもが働かずにすむ社会の実現を目指しています。

家事使用人として働く少女たち支援にシャプラニールとともに取り組むNGO

フルキ Phulki

1991年に設立された、女性と子どもの生活向上を目的とするバングラデシュのNGO。「フルキ」とはバングラデシュの言葉・ベンガル語で「火花」「きらめき」という意味です。代表をはじめスタッフはほぼ全員が女性。縫製工場での託児所設置やスラムでの活動などに実績。2006年よりシャプラニールの現地パートナー。

シャプラニール シャプラニールとは?

1972年に創立された、民間の海外協力団体NGO。
バングラデシュの農村で活動を始め、現在ではネパールを含む南アジアで貧困問題の解決を目指し、他のNGOや行政の支援から取り残された人々の生活向上を支援しています。

家事使用人として働く少女たち支援のほかに、

●取り残された子どもたちへの初等教育支援(バングラデシュ)
●地方部における児童労働削減支援(ネパール)
●災害が多い地域での防災支援(バングラデシュ・ネパール)
●青少年グループをチェンジメーカーとした気候変動対応事業(バングラデシュ)
●在住外国人にかかわる取り組み(日本)

などに取り組んでいます。

これまでの受賞歴
外務大臣特別賞(1989年)、東京弁護士会人権賞(1989年)、毎日国際交流賞(1993年)、朝日社会福祉賞(2005年)

シャプラニールの原点。「バングラデシュの人々にとって本当に役立つ援助とは何か?」1972年。シャプラニールは熱き思いを持った若者たちによって設立されました。

1974年。シャプラニールのフェアトレードは、女性の生活向上支援の一環として生まれました。

謝辞 THANK TO:

本展示にあたりましては、
以下を含む多くの団体・個人の皆様にご協力をいただきました。
心からお礼を申し上げます。

資料協力
(特活)シャプラニール=市民による海外協力の会
日下部尚徳 立教大学異文化コミュニケーション学部 准教授

制作協力
佐々木綺音 聖心女子大学教育学科教育学専攻
今野優海 聖心女子大学人間関係学科

聖心女子大学グローバル共生研究所

同時開催