企画展 いま、「女性」はどう生きるか ―キャリア・結婚・装い・命―

Chapter 1「児童婚」を知っていますか?

「児童婚」とは18歳未満での結婚のことである

「児童婚」とは、「一方または両方の当事者が18歳未満である正式・非公式な結婚のこと」を指します。たいていの場合、パートナーの一方のみが子どもで、その多くは少女です。

1962年、国連条約は婚姻年齢を15歳以上、1979年には18歳以上と提案しました。現在、ユニセフでは18歳未満の婚姻を児童婚と定義しています。

子どものうちに結婚する少女の数は、世界で年間1,200万人と推定されていて、少女の約5人に1人が18歳未満で結婚しているとされています。

POINT
  • ユニセフでは18歳未満の結婚を「児童婚」と定義
  • 児童婚の撲滅はSDGsの目標にもなっている
世界の少女の5人に1人が18歳未満で結婚

2019年には、児童婚の発生率は世界的に減少傾向にありましたが、変化のない地域も多く存在します。持続可能な開発目標(SDGs)において、2030年までに児童婚を撲滅することが掲げられています。しかし、その目標を達成するためには、この10年間の児童婚撲滅のための取り組みを12倍の速さで行わなければならないと言われています。

POINT
  • ユニセフでは18歳未満の結婚を「児童婚」と定義
  • 児童婚の撲滅はSDGsの目標にもなっている

各国の結婚できる年齢は何歳?

多くの国では、結婚が可能な年齢をその国が定めている法定成人年齢と同じに定めています。しかし、成人になる前の12~17歳で結婚可能としている国や、結婚が可能な年齢が男女で異なっている国も。男女差がある場合には、女性が男性より1~3歳若く定められています。

日本も結婚可能年齢には男女差があり、男性は18歳、女性は16歳に設定されています。男女差があることに合理的な理由がなく、男女差別的であるといった国際的な批判を受けてきました。民法改正によって、2022年4月からは男女共に18歳に統一されます。

POINT
  • 成人前の年齢で、結婚可能な国も多い
  • 法律だけで児童婚を禁止するのは難しい

法的に結婚が可能な年齢を成人の年齢と同じに定めていても、親の同意や宗教的な求めにおいて、成人前でも結婚を認める例外規定が定められていることが多く、法律だけでは児童婚を阻止することが難しい国もあります。

POINT
  • 成人前の年齢で、結婚可能な国も多い
  • 法律だけで児童婚を禁止するのは難しい

児童婚はどこで起こっている?

世界で児童婚を経験した少女と女性のうち、42%が南アジア、26%が東アジアと太平洋地域、17%がアフリカで暮らしています。

それぞれの国で見ていくと、15歳までに結婚する少女の割合が最も高いのが、チャド(30%)。18歳までに結婚する少女の割合が最も高いのがニジェール(76%)です。

児童婚は、途上国で多く発生している問題です。生活の困窮から幼い娘を嫁がせるなど、家庭の貧困とも大きく関わるため、都市部よりも地方で、特に多い傾向が見られます。

POINT
  • 貧困の問題と関わることから途上国に多い

児童婚の割合が高い国(ユニセフ「世界子供白書2019」より) (2012~2018)

18歳までに結婚する割合が最も高い10カ国のうち、8カ国がアフリカの国々です。児童婚の多い地域は、南アジア地域からサハラ以南のアフリカに移りつつあります。児童婚への対処が遅れていること、人口の増加によるものとされています。

POINT
  • 貧困の問題と関わることから途上国に多い

「児童婚」に
 直面した女性たち

各地で起こっている児童婚には、さまざまな経緯や
背景が存在します。結婚を強制され辛い経験をした人、
理不尽な結婚に立ち向かい自立を目指す人…。
児童婚に直面しながらも、強く前向きに生きようとする
4人の女性のエピソードをご紹介します。
シルビアさん(仮名) 19歳 南スーダン
14歳で結婚。
アルコール依存症の夫から暴力を受け
背中に大ケガを負った。

南スーダンの戦争により飢饉に見舞われ、14歳のシルビアさんは裕福そうな若い男性と結婚しました。妊娠していたため、母親に結婚が唯一の選択肢だと言われたのです。しかし、実は相手は裕福ではなくアルコール依存症で、シルビアさんを虐待するようになりました。

その後、戦争が激化。シルビアさんは子どもと共に夫から逃れ、ウガンダに逃げた母親を追って、難民キャンプへ向かいます。しかし、夫は彼女を探し出し連れ戻そうとしました。拒否すると、ひどく殴られ、腕と背中に大ケガを負いました。今でも背中がひどく痛むため、コルセットを着用し生活しなければなりません。

  • 国際NGOプラン・インターナショナル
ナジルさん(仮名)17歳 シャリーナさん(仮名)14歳 バングラデシュ
少女が結婚に逆らう唯一の方法は、
自殺しかない。

2人の結婚は、シャリーナさんの父とナジルさんの祖父によって決められました。子どもを結婚させるのは親の義務であり、子どもの利益、家族の利益のためと考えられています。当事者の少年は結婚について同意する必要がありますが、少女は親に逆らうことはできません。両親が決めた結婚に逆らうのは難しく、逃げる唯一の方法は自殺しかありません。子どもに選択の権利はほとんどないのです。

サンギータさん(仮名)19歳 インド
「15歳のとき結婚の話があり、
何日も泣いて抗議した」

サンギータさんは人里離れた村で、農業から得るわずかな収入で暮らしています。15歳の時に父親から結婚の話があり、何日も泣いて抗議しました。父親は、いったんはあきらめたものの、最近再び結婚を提案してきました。看護師になりキャリアを積みたいと説明すると、理解してくれました。しかし、家族や世間から「娘を結婚させるように」というプレッシャーを受け続けることは変わりません。

  • 国際NGOプラン・インターナショナル
アイシャさん15歳 カメルーン
「経済的に自立できたら、
夫を選んで結婚したい」

難民キャンプにいるアイシャさん。経済的な事情から父親は結婚を手配しましたが、母親は自分も12歳で結婚した経験から娘に同じ思いをさせたくありませんでした。そこで、国際NGOプラン・インターナショナルと連携をしつつ、子どもの権利の保護活動をしている地元組織に相談。父親と話し合い、結婚の代わりに職業訓練に登録することで同意しました。アイシャさんは「経済的に自立できたら夫を選んで結婚したいです」と話しています。

  • 国際NGOプラン・インターナショナル

映像で知ろう。児童婚の実態。

13歳の花嫁(ニジェール)
女の子の価値はヤギ1頭分?(ナイジェリア)
妹はたった11歳で妊娠しました ~法律を変える女の子たち(マラウイ)
結婚を拒んだシンタイェフ(エチオピア)
13歳の花嫁
13歳の花嫁
ニジェール
女の子の価値はヤギ1頭分?
女の子の価値はヤギ1頭分?
ナイジェリア
妹はたった11歳で妊娠しました ~法律を変える女の子たち
妹はたった11歳で妊娠しました ~法律を変える女の子たち
マラウイ
結婚を拒んだシンタイェフ
結婚を拒んだシンタイェフ
エチオピア
  • 映像提供:国際NGOプラン・インターナショナル

子どもたちの未来を奪う
児童婚

心身ともに幼いままで結婚することは、
少女たちにさまざまな悪影響を及ぼします。
どんな弊害があるのでしょうか
教育の機会を奪う

少女たちは家事のすべてを担わされることが多く、学校を中途退学するリスクも高まります。満足な教育を受けられないことは、自分が望む生活を選択する機会や収入を得る機会を失うことにもなりかねません。

「自立の道を閉ざされた人生」
スミラさん 17歳

10歳の時に結婚させられた夫が病気で亡くなり、婚家にも拒否され、家も家畜も何もないまま、2人の子どもを育てなくてはなりませんでした。学校に通えなかったため仕事もありません。幼くして結婚をした少女は、夫を亡くしたら生きていくすべがなく、そこで人生が終わってしまいます。

妊娠・出産の危険

体が未発達な状態で「早すぎる妊娠・出産」を経験するため、少女本人と生まれてくる子どもが深刻な身体的ダメージを受けることも。健康が損なわれる危険や、命を落とす危険性があります。

「母子共に体調がすぐれない日々」
サビタさん 17歳

家が貧しいうえに父親が病気になってしまいました。家計の負担を減らすために、抵抗のしようがないまま14歳で結婚させられました。今、8カ月になる息子がいますが、妊娠中は体調が悪く、息子もとても病弱です。結婚以降、人生は悲惨なものになってしまいました。

配偶者の暴力・虐待

幼い妻は、家庭内での地位が低く発言権を持っていません。そのため、夫やその家族から、虐待や暴力を受けるケースも多く見られます。

「夫からの暴力は、当たり前のこと」
ラダさん 27歳

幼くして結婚させられた当初、夫はラダさんに暴力をふるいました。しかし、暴力はこの地域では当たり前のこととされており、ラダさんも殴られて当然と思っていました。しかし今は、暴力はいけないということ、女性にも権利があることを知り、他の女性のためにこうした知識を伝える活動を行なっています。

児童婚が
なくならない理由とは

児童婚は歴史的に当然のこととして行われてきました。
それが現在も存続しているのには多くの要因がありますが、大きく分類すると右図の5つになります。

そもそもは、法的強制力が弱いという途上国特有の問題があり、さらに花嫁・花婿側双方にとって、暮らしに直結したメリットの側面が大きいのです。花嫁側は、家計における娘のための支出を削減でき、若いほど婚資が少なくてすみます。治安の悪い地域では、結婚が暴力などから娘を守ることにもなります。花婿側にとっては、妊にん孕よう性せい(妊娠する力)と、嫁としての従順性を期待できると考えられています。

理由・1
児童婚を撲滅するためには何が必要?

インドは、2006年に児童婚禁止法(The Prohibition of Child Marriage Act, 2006)を導入し、児童婚が大幅に縮小しました。とはいえ、長年の社会規範を変革することはたやすいことではありません。しかし、教育、労働参加、ジェンダー意識改革は、児童婚撲滅に有効であろうと示唆されています。女性が教育を受けてスキルを身につければ就業機会も得ることができ、実家への経済的貢献が可能となります。女性のエンパワーメントを実現できれば、急ぎ結婚する必要がなくなるのです。

理由・2
背景にある「ジェンダーの不平等」

児童婚の5つの要因の根本的な背景として存在するのは、「ジェンダーの不平等」です。少女・女性は、少年・男性より劣っているという概念が浸透しており、女性たちは意見を主張する機会が少なく、管理され従うべき存在として扱われていることがうかがえます。

理由・3
日本女性とも無関係ではない

児童婚の背景にある「ジェンダーの不平等」は、日本社会にも深く関係しています。男女の雇用機会や賃金の格差、家事や育児は女性の仕事だとするジェンダーロールなど…。遠い国のできごとに思える児童婚の問題も、私たちが抱える問題と実は根本は同じなのです。

  • 公益財団法人日本ユニセフ協会「児童婚 子どもの花嫁、年間約1,200 万人 世界の女性の5 人に1 人が児童婚を経験 ユニセフ、教育への投資、地域社会の意識改革訴える」、 2019年2月12日
    https://www.unicef.or.jp/news/2019/0019.html
  • Heath, Rachel and Ahmed Mushfiq Mobarak. 2015. "Manufacturing Growth and the Lives of Bangladesh Women."
    Journal of Development Economics 115:1–15.
  • Jensen Jensen, Robert. 2012. "Do Labor Market Opportunities Affect Young Women’s Work and Family Decisions?
    Experimental Evidence from India." Quarterly Journal of Economics 127(2):753–792.
  • 牧野百恵「ポピュレーション・カウンシルと児童婚の研究」『IDE スクエア ̶海外研究員レポート』日本貿易振興機構アジア経済研究所、2020年2月、pp.1-8.
    https://www.ide.go.jp/Japanese/IDEsquare/Overseas/2020/ISQ202030_003.html
今回の展示にあたり国際NGOプラン・インターナショナルからご提供いただいた資料では、「女の子」という表記が使われていますが、本展示では「少女」で統一しています。
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