企画展 いま、「女性」はどう生きるか ―キャリア・結婚・装い・命―

コルセット−「愛」のために細く

イギリスで問題になったコルセット

19世紀後半、中国で纏足てんそくの害が意識され始めた頃、イギリスではコルセットの害が注目されていました。

西洋では、古代ギリシアから中世の終わりまで、女性たちの衣裳はゆったりしていました。しかし12世紀中頃からはウエストのくびれが求められるようになり、16世紀には本格的なコルセットが登場しました。女性たちは動きを制限され、しかもウエストを細く締めることによって、弱々しく「女らしい」雰囲気になりました。弱々しく、いかにもお金がかかっていそうな女性は、資産のある男性でなければ養えないので、男性に金銭的な実力を示す機会を与える存在でもあったのです。

  • 平凡社編『新版世界史モノ事典』平凡社、2017年
  • 戸矢理衣奈『下着の誕生―ヴィクトリア朝の社会史』講談社、2000年
  • 東田雅博『纏足の発見―ある英国女性と清末の中国』大修館書店、2004年
  • 岩田託子・川端有子『図説 英国レディの世界』河出書房新社、2011年

コルセットとは?

コルセットとは、女性用下着の一種で、胸の下から腰にかけての体形を整えるために用いられました。クジラのひげやはがねで枠組みが作られ、他の部分は綿、絹、ナイロン、ゴム布などで作られていました。洋服店などで販売されていました。

“蜂のような腰”が流行

1870~80年代のイギリスでは、コルセットを極端にきつく締めることで、胸と腰が張り出し、ウエストは折れそうに細いという蜂のようなスタイルが流行しました。19世紀後半には、産業化により人々が急速に豊かになり、コルセットは下流階層の人々にも広まりました。

女性旅行家から見た婦人服

イギリスの女性旅行家のイザベラ=バードは、「中国の婦人服は、着る人の階級にかかわりなくきわめて快適で、纏足てんそくの苦痛を相殺してくれます。コルセットもウエストバンドもついておらず、締めつけるものは何もありません」と述べています。イギリス女性の服装の窮屈さと不自由さが垣間見える一文です。

“男性の愛情を得る”ための道具?

当時の女性たちが細い腰にこだわったのには、どんな理由があったのでしょうか。

コルセットは西洋で広く用いられましたが、ここで取り上げたいのは、締めつけ方が特に強かった1870~80年代のイギリスの事例です。

母親や女性教師たちは、少女たちにコルセットを着用させて、細いウエストを手に入れさせようとしました。中流階級の女性や女中も、コルセットの締めつけに励んでいましたが、激しい労働には向かない服装であり、特に細いウエストを追求したのは上流階層の女性たちでした。当時、若い女性が男性と接する機会は限定的だったので、社交の場で男性の心をつかむために、女性たちは競ってウエストを細くしようとしたのです。

  • 戸矢理衣奈『下着の誕生―ヴィクトリア朝の社会史』講談社、2000年
  • 岩田託子・川端有子『図説 英国レディの世界』河出書房新社、2011年

コルセットの強い締めつけ(タイト・レイシング)を行った女性は、「私は夫がほかの女性の体型フィギュアを気に入っているだなんて思うだけでも耐えられませんでした」と述べ、たいへんな苦痛を我慢しました。当時の男性が細いウエストに魅力を感じていたことが窺えます。

経済不況を背景に、1870~80年代のイギリス女性はかつてないほどの結婚難に直面していました。女性は結婚相手を探すために美容を重視しましたが、化粧は育ちのいい女性にはふさわしくないと考えられていました。そこで細いウエストを手に入れ、魅力的だと思われようとしたのです。コルセットを巡る論争の中で、男性の多くは細すぎるウエストを批判し、妻に極度に細いウエストを求めているわけではないと述べていますが、それでも女性たちは細いウエストを追い求めました。

締めつけによる突然死も…!
コルセットの害

コルセットで腰を強く締めつけていたため、当時の女性たちは多くの不調に悩まされていました。

纏足てんそくと同様、コルセットも身体を強く締めつけることで、女性たちの健康に深刻な悪影響をもたらしました。この時、理想とされたウエストは42.5~45cmと極端に細く、内臓のずれや骨格のゆがみ、頭痛、背中の痛み、消化不良、食欲不振、呼吸困難、血行不良、手足の冷えなど、数えきれないほどの害がありました。

この時期の新聞には、コルセットのきつい締めつけによる突然死の事例が報道され、医師も書籍や論文、講演を通して警告しましたが、ファッショナブルに生きたいと願う女性たちはこのような警告を無視していました。

Anonymous Unknown author, Public domain, via Wikimedia Commons NEW PATHFINDER NO. 2; PHYSIOLOGY FOR YOUNG PEOPLE ADAPTED TO INTERMEDIATE CLASSES AND COMMEN SCHOOLS.
page 84, Public domain, via Wikimedia Commons

合理服協会が求めた新しいドレスの形

19世紀後半に起こった服装改革運動。女性たちは自由に動くことができる衣服を求め活動しました。

纏足てんそくの害とコルセットの害は同じ頃に意識されるようになりました。康有為こうゆうい不裹足会ふかそくかい設立を試みたのが1883年、イギリスで実用的で快適な衣服を提案した合理服協会が結成されたのは1881年です。イギリスの新聞『タイムズ』でも、纏足の害とウエスト締めつけの害が並べて論じられました。

合理服協会は動きやすい服のルールを定めた「完璧なドレスの五箇条」を掲げ、女性の服装改革を行いました。外国人宣教師や男性知識人中心だった反纏足てんそく運動と異なり、協会の中心は女性たちでした。特に、レディー・ハーバートンは子爵夫人という立場から、この協会で考案した服を身にまとって自転車に乗るなど、活発に活動しました。

  • 戸矢理衣奈『下着の誕生―ヴィクトリア朝の社会史』講談社、2000年
  • 岩田託子•川端有子『図説 英国レディの世界』河出書房新社、2011年
  • “Chinese Women and Footbinding” The Times (London, England), July 13, 1895
  • “Footbinding in China” The Times (London, England), January 20, 1911
  • Sin especificar, Public domain, via Wikimedia Commons
自由に
動けること
身体の
いかなる部分にも
圧迫感を
与えないこと
あたたかさに必要な
以上の重くなく、
その重さは均等に
配分されること
快適さと
便利さに結びついた
上品さと美しさを
備えていること
その時代の
一般的な服装と
かけ離れないこと
同時開催