企画展 いま、「女性」はどう生きるか ―キャリア・結婚・装い・命―

⼥性と健康 命と健康は平等か?

〜ネパール、ホンジュラス共和国、ザンビア共和国での取り組み〜

ネパールの女性にがん検診の機会を

乳がん・子宮頸がんスクリーニングキャンププロジェクト(ネパール)

ネパールの首都カトマンズ市に隣接するゴカルネシュワル市で、乳がん・子宮頸がんの早期発見を目的に、スクリーニングキャンプ(医療チームが各集落や診療所に出向いて行う出張がん検診)と啓発活動に取り組んでいます。これまでに検診を受診した女性は3千人。また、啓発活動でがんの情報や知識を新たに得た住民は1千人に上ります。ネパールの女性がん患者の内、子宮頸がんと乳がんの罹患者数が最も多く、がんに起因する死亡数の約3割を占めています。定期検診制度や予防啓発が十分整っていないこともあり、検診の受診率は低く、受診時には既にがんが進行しているケースも少なくありません。

ゴカルネシュワル市でも、定期的な検診サービスは提供されておらず、対象年齢女性の7割は、検診を一度も受けたことがありません。未受診の理由で最も多いのは「がん検診の存在を知らない」ためで、その割合は半数にも上ります。次いで「病院が遠く、時間も交通費もない」「恥ずかしいから」が多く、中には男性医療スタッフに妻や娘の体を見られたくない家族に受診を反対されているといった、男尊女卑社会を背景とした理由も少なくありません。そこで、医療チームが集落に出向いて検診することで受診者の経済的な負担を減らしたり、啓発を通じて理解を深め、検診を受診する不安や恐怖感を取り除いたり、家族からも理解が得られるよう女性の医師やスタッフを医療チームに加えたりするなど、様々な工夫を凝らしながら、活動に取り組んでいます。

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事業協働
パートナー
第一三共株式会社 第一三共株式会社

スクリーニングキャンプ受診者の多くにとって、がん検診は人生初

子宮頸がん検診では、酢酸による頸部視診法を採用

すべての母と子に健康を

ダン郡ガダワ地区における母子の健康格差是正事業(ネパール)

ネパール政府は、2030年までに地域や民族間の健康格差を是正する政策を掲げていますが、大地震やコロナ禍による影響もあり、課題は山積しています。特に、ダン郡ガダワ地区のような地方農村部で、少数民族や低カースト層などの社会的弱者が多く住む地域は、日本では考えられないような健康格差に悩まされていました。例えば、ガダワ地区の小児下痢疾患率は都市部に比べ5倍も高いといった地域間格差はもちろん、同じ地区内でも妊婦健診受診率が最高74%の地域から最低20%まで4倍もの差がありました。

そこで、地区内で格差が生じている背景や原因を把握し、改善するために必要な診療所の整備や保健人材の育成、地域住民に対する啓発活動に取り組みました。その結果、妊婦健診受診率や子どもの予防接種率などの保健指標の格差を是正できたほか、診療所までの移動所要時間が2時間近くも短縮されました。

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その他のネパールでの取り組みについては こちら

事業協働
パートナー
日本国外務省 日本国外務省
生活協同組合おかやまコープ「AMDA基金」 生活協同組合おかやまコープ「AMDA基金」

地域の母子保健向上に向け、重要な役割を担う保健ボランティア

保健ボランティアによるベースライン(基礎)調査
保健ボランティアによるベースライン(基礎)調査

センシティブな部分のがんに関する調査のため、調査員役の保健ボランティア(左)が、自身が住む集落の女性にインタビュー。顔なじみからの問いかけなので、恥ずかしがることなく素直に答えられます。

乳がん・子宮頸がん検診の受付
乳がん・子宮頸がん検診の受付

検診会場入り口の受付では、問診や身長・血圧測定、インフォームドコンセント(説明と同意)が行われます。読み書きが苦手な女性も少なくないので、スタッフが自覚症状や病歴などを聞き取り、問診票に記録します。

女性医療スタッフによるコンサルテーション
女性医療スタッフによるコンサルテーション

約2割の女性が「男性に診察されるのが恥ずかしい(もしくは家族に反対される)から」を検診未受診の理由に挙げています。女性医療スタッフは、検診者だけでなくその家族にも安心感を与える存在です。

マンモグラフィ検査
マンモグラフィ検査

触診検査で異常が確認された場合は、マンモグラフィや乳腺エコーによる再検査を行います。ネパールでも日本と同様、40歳以上にはマンモグラフィ、未満には乳腺エコーによる診断が奨励されています。

乳がん啓発月間にあわせて行進する女性グループ
乳がん啓発月間にあわせて行進する女性グループ

乳がん啓発月間(毎年10月)にちなみ、乳がん検診の重要性を訴えながら行進する女性グループのメンバー。プラカードには「検診は怖くない!」「早く見つかれば治る!」などのメッセージが書かれています。

酢を使った子宮頸がん検診
酢を使った子宮頸がん検診

酢酸による頸部視診(VIA)は、ネパールをはじめとする開発途上国でよくみられる子宮頸がんの検査法です。酢酸を子宮頚部に塗布すると、がんになる前の異常な細胞があれば数分で白く変色します。

リプロダクティブヘルス・キャンプの様子
リプロダクティブヘルス・キャンプの様子

主に15~49歳の女性と乳幼児が、無料で診察・治療を受けられるサービスで、骨盤内感染症や子宮脱、不妊相談など、幅広い症例に対応します。保健施設から遠い集落の住民にとって、とても貴重な機会になります。

すごろくで学ぶ妊婦の心得
すごろくで学ぶ妊婦の心得

十分な教育を受けられなかった地方農村部の女性にとって、保健知識を理解するのは、必ずしも容易なことではありませんが、このすごろくゲームなら、妊婦の禁忌事項や危険兆候などを楽しく学ぶことができます。

ネパール

面積:14.7万㎢(日本の約0.4倍)
人口:2,913万人(2020年/世界銀行調べ)
公用語:ネパール語
1人あたりのGNI:1,190米ドル(2020年/世界銀行調べ)
5歳未満児死亡率:28人(出生1,000人あたり、2020年/UN IGME調べ)
妊産婦死亡率:186人(出生10万人あたり、2020年/WHO調べ)

32%の女性が19歳までに初産を迎える

アジア最貧国の1つであるネパールは、経済成長をけん引する産業が育っておらず、一人あたりの年間所得は1,190米ドルに留まっています。海外出稼ぎ労働者からの送金や観光業に依存する社会経済は、コロナ禍が大きな障害となり、その影響としわ寄せは、母子をはじめとする社会的に弱い立場にある人へ及んでいます。健康の面でも誰一人取り残さない、きめ細やかな支援が必要とされています。

妊婦であることを楽しみ、
安心して出産できるように

妊産婦ケア強化事業(ホンジュラス共和国)

エル・パライソ県には県内19市に約50万人が居住し、毎年12,000人を超える女性が妊婦になっています。県内には出産を扱える公的分娩施設が4か所ありますが、物理的、経済的にアクセスの悪い山間地域に住んでいる妊婦は、専門技術者の介助なく自宅で出産しています。
また、妊婦健診に必要な超音波検査や血液検査などを行う体制が整っておらず、リスクの早期発見が困難なことや、妊婦、家族ともに、妊娠中の健康維持の方法や施設分娩の重要性について知らないことなどから、母子ともに命を落としてしまうケースに直結することもあります。

そこで「妊産婦ケア強化事業」では、妊婦が周産期を健康に過ごし、安全な出産を選択できるようになることを目指した活動を実施しています。具体的には、公的保健医療施設(保健所)への資機材の提供や医療スタッフへの技術研修、地域で妊婦を支える役割を担う保健ボランティアや伝統的産婆への研修ならびに保健所との連携強化、妊婦を安全に保健所へ搬送するための行政や保健ボランティアとの協議、そして妊婦と地域住民に対し、周産期の健康と安全な出産に関する理解を促進する啓発活動に取り組んでいます。

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その他のホンジュラスでの取り組みについては こちら

事業協働
パートナー
日本国外務省 日本国外務省
相模原橋本ロータリークラブ 相模原橋本ロータリークラブ
生活協同組合おかやまコープ「AMDA基金」 生活協同組合おかやまコープ「AMDA基金」

生まれて間もない我が子を愛おしそうに見つめる母親

妊婦健診に向かう臨月の妊婦
妊婦健診に向かう臨月の妊婦

山間部では、保健所が遠いばかりか、橋がかかっていない川を渡らなければならないところさえあります。それでも、異常の早期発見が自分と赤ちゃんを守ることを理解した妊婦は、馬に乗って健診へと向かいます。

エコー画像に写った胎児を見つめる妊婦
エコー画像に写った胎児を見つめる妊婦

エコーを提供した母子保健センターでは、技術研修を受けた看護師が超音波検査を実施できるようになりました。異常の早期発見につながるほか、公的機関であることから検査料も安価に設定されており、妊婦が安心して検査を受けられます。

超音波画像診断装置(エコー)の使い方を学ぶ受講生
超音波画像診断装置(エコー)の使い方を学ぶ受講生

妊婦健診で超音波検査を実施できていなかった保健所にエコーを供与するとともに、使い方の技術研修を医療スタッフに対して行いました。初めてエコーを使用する受講生(医師・看護師)は、熱心に学んでいました。

自宅で保健教室をするボランティア
自宅で保健教室をするボランティア

保健ボランティアは、同じ村に住む妊婦やその家族を自宅などに集め、研修で学んだことを自ら伝えています。自分たちで作成した教材を用いて、丁寧に説明するよう心がけています(写真は家族計画について)。

真剣な眼差しで妊婦クラブに参加する女性たち
真剣な眼差しで妊婦クラブに参加する女性たち

保健所では、妊婦を対象とした保健教育の機会(妊婦クラブ)を定期的に提供するよう努めています。妊婦クラブでは、妊娠中の栄養と過ごし方、危険兆候、施設分娩の重要性などについて学ぶことができます。

リプロダクティブヘルスについて学ぶ若者
リプロダクティブヘルスについて学ぶ若者

若年妊娠が社会問題となっているホンジュラスで、自分たちに身近な課題として認識してもらえるよう、ピアリーダーとなる若者を育成しています。彼らから周囲の若者へと伝えてもらうことで、輪を広げています。

ホンジュラス共和国

面積:11.2万㎢(日本の約3分の1)
人口:990万人(2020年/世界銀行調べ)
公用語:スペイン語
1人あたりのGNI:2,180米ドル(2020年/世界銀行調べ)
5歳未満児死亡率:16人(出生1,000人あたり、2020年/UN IGME調べ)
妊産婦死亡率:65人(10万人あたり、2020年/WHO調べ)

山岳部に住む家族

ホンジュラス共和国は、中米に位置する豊かな自然と多様な生物に恵まれた国です。一方で、人々の暮らしに必要な社会サービスは十分に提供されておらず、国民の約6割が貧困状態にあります。

生理が、あきらめる理由に
ならない世界へ

ハートサポートプロジェクト(ザンビア共和国)

首都ルサカ市でコンパウンドと呼ばれる低所得者が暮らしている地域では、水道や電気などの生活インフラが整っておらず、人々は感染症をはじめとする病気や健康不良と隣り合わせの生活を強いられています。中でも思春期の女の子は、もうひとつの課題―近年、世界でも話題となっている「生理」の問題を抱えています。

経済的に貧しい家庭の中には、生理用ナプキンを買えず、古い布の切れ端やトイレットペーパー、脱脂綿、新聞紙などで代用している女の子がいます。しかし、こうしたものではとても対応できず、月経の間は学校を休み、小学校でもテストに合格しなければ進級できないザンビアでは、中退や落第という結果につながることも珍しくありません。

そこでアムダマインズは、大王製紙株式会社の「ハートサポートプロジェクト」と協働し、女の子自身による布ナプキンの作製と普及の他、リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)に関する知識と情報を、男の子を含む思春期層へ普及する活動に取り組んでいます。布ナプキンを受け取った女の子たちは、「肌触りが良くて快適」「学校を休まなくて良くなる」「勉強を続けて将来の夢を実現したい」と、明るい未来を思い描けるようになってきています。

事業の詳細は こちら
その他のザンビアでの取り組みについては こちら

事業協働
パートナー
大王製紙株式会社 大王製紙株式会社

分担して布ナプキンを作製するピア・エデュケーター

足踏みミシンで布ナプキンを作製
足踏みミシンで布ナプキンを作製

昔ながらの足踏みミシンで、布ナプキンの作製に挑んでいます。作り方を覚えたばかりですが、材料が限られているため、簡単に失敗するわけにはいきません。慎重な面持ちでミシンをかけていきます。

布ナプキンの出来は上々
布ナプキンの出来は上々

ピア・エデュケーターの女の子たちは、作業を分担したり交代したりしながら、毎日布ナプキンの作製を進めています。みんなで協力して作り上げた布ナプキンの出来は、上々です。

日本からの応援に微笑む女の子たち
日本からの応援に微笑む女の子たち

ハートサポートプロジェクトで、エコバッグとリーフレットを現地に届けました。リーフレットには、布ナプキンのお手入れの方法や、日本の女の子からの応援メッセージが掲載されています。温かい気持ちは、しっかりと伝わっているようです。

同年代の女の子の相談に乗るピア・エデュケーター(左)
同年代の女の子の相談に乗るピア・エデュケーター(左)

研修を受けたピア・エデュケーターは、布ナプキンを作るだけでなく、若者のリプロダクティブヘルスに関する悩みを聞いたり、様々な相談に乗ったりもしています。同年代だからこそ、分かり合えることがあります。

ザンビア共和国

面積:75.3万㎢(日本の約2倍)
人口:1,838万人(2020年/世界銀行調べ)
公用語:英語
1人あたりのGNI:1,160米ドル(2020年/世界銀行調べ)
5歳未満児死亡率:61人(出生1,000人あたり、2020年/UN IGME調べ)
妊産婦死亡率:213人(10万人あたり 、2020年/WHO調べ)

生理について説明するリーフレットを手に、笑顔の女の子たち

1964年の独立以来、紛争を経験していない、アフリカでもっとも平和な国の一つです。一方、人口の6割以上が1日1.9米ドル未満での生活を余儀なくされるなど、国民の生活向上に向けた継続的な取り組みが求められています。

特定⾮営利活動法⼈AMDA 社会開発機構

AMDA 社会開発機構(アムダマインズ)は、世界の貧困地域で人づくり・村づくりを通じて暮らしの改善に取り組む認定NPO 法人です。 現在、アジア・アフリカ・中南米の9 か国※で、約80 名のスタッフが保健、水と衛生、生計向上、農業、青少年育成など、SDGs 達成に向けた社会開発プロジェクトに携わっています。
日本国内では、国際理解教育や企業連携を通じた社会教育を推進しています。

(※JICA 技術協力プロジェクトへのスタッフ派遣をしている国を含めれば11か国)

2021年度は、職員の短期派遣先も含め、アジア・アフリカ・中南米の11か国において開発支援事業に携わることができました。長引くコロナ禍の中、保健医療、収入向上から農業、環境保全、教育、災害復興支援にいたるまで、さまざまな分野にわたる取り組みを進めましたが、ミャンマーでは社会情勢の悪化による影響が大きく、一部活動の中止や延期、休止等の対応を余儀なくされました。
アジアでは、3か国での活動を継続しました。ミャンマーで2つの母子保健事業とマイクロファイナンスを可能な範囲で継続しましたが、非感染性疾患対策は社会情勢の悪化を受け、休止しました。ネパールでは母子保健事業と乳がん・子宮頸がんの予防と早期発見を目指す活動を継続した他、新たにコーヒー栽培を通じた収入向上活動を開始。また、インドネシアでは晨業分野のJICA技術協カプロジTクトヘの職員派遣を継続しました。
アフリカでは、6か国で活動することができました。マダガスカルでは、環境保全と飢餓対策支援に加え、大幅に規模を拡大した栄養改善事業を新たに開始しました。ザンビアでは、思春期の子どもたちとコミュニテイセンターヘの支援を、また、シェラレオネでは妊産婦への支援を継続。保健と教育分野におけるJICA技術協カプロジェクトヘの職最派遣は、シェラレオネ、ニジェールに加え、新たにガーナ、エジプトでも実施しました。
中南米では、ホンジュラスで、家庭菜園と母子保健事業、住みやすいコミュニティづくリ支援に加え、ハリケーン被災者への復興支援を継続しました。また、新たにアグロフォレストリー事業の取り組みと、JICA技術協カプロジェクトヘの参画を開始しました。
日本国内では、オンラインも積極的に活用しつつ、学校や団体等での講演やイベント出展を続けた他、企業や各種教育機関等との連携の拡大に努めました。
以上の活動は、会員、マンスリーサポーター、企業、団体、個人の皆様からの支援と、日本国外務省や独立行政法人国際協力機構 (JICA)からの資金協力によリ実施しました。

持続可能な開発目標とは

(SDGs:Sustainable Development Goal

ミレニアム開発目標(MDGs)の後継であり、17の目標と169のターゲットからなる2030年までに達成すべき国際社会共通の目標です。SDGsと各国におけるアムダマインズの活動との関連性を図に示しました。
同時開催
⼥性と健康「命と健康は平等か?」