『テレジン収容所の幼い画家たち展』は、1991年に始まり、もう30年を越しているのに、まだ続いている。私の住む川越では、もう5回目だ。小金井でも、北九州でも、それぞれ3回、4回と繰り返し開催している。
「もう何度も見ているけど…」と言いながら、遠くの会場に来てくれる人がいる。友人を誘って……、子どもを連れて……、孫が大きくなったから……、テレジンの事実を知ったから、みんなに伝えたいと言うのだ。
たったひとりで始めた仕事、テレジン収容所という名前すら知っている人はいなかった。今でも、はじめて知ったという人が多い。でも、一生懸命語ってきた……。つらい話をしてくれた人がいるのだから、それを語らねばと。
はじめの頃「たかが子どもの絵だろう」と言った新聞記者がいた。でも、彼は絵の前に立った時「この子たちの絵は、人の心を優しくする」と言った。そして、この事実を伝える記事を書いてくれた。「伝えることが、知った人間の義務みたいな気がした」と。
そんな人が、ひとり、またひとりと増えていったのだ。
みんな、あの子たちの絵から伝わる声を聴いたと言う。自分が生まれた日に殺された少女がいた。孫と同じ誕生日の少女が、孫も大好きな遊園地の絵を描いていた…。そんな理由だけど、あの子たちがいたこと、死が近づくのを知りながら、こんな明るい美しい絵を描いていたことを、多くの人に伝えたいと言うのだ。
「子どもたちを励まし続けた先生、私と同じ齢でアウシュヴィッツヘ送られたけれど、なんて素晴らしい生涯、数知れないほど大勢の子どもたちに、忘れていた笑顔を取り戻させ、希望を語らせたなんて…。私たちみんなが、そんな働きをしなければと思うから、まわりの人たちに知らせます」
涙を浮かべて語ってくれた人……。今日も、そんな人が現れたらすばらしいのだけれど―。
2023.5. 野村路子